高松高等裁判所 昭和63年(う)99号 判決 1989年11月28日
主文
原判決を破棄する。
被告人を死刑に処する。
押収してある猟銃(散弾銃上下二連銃)一丁(当庁昭和六三年押第二五号の一)を没収する。
理由
本件各控訴の趣意は、検察官山田廸弘作成並びに弁護人越智傅及び同松本修二共同作成の各控訴趣意書に記載のとおりであり、これらに対するそれぞれの答弁は、弁護人越智傅及び同松本修二共同作成並びに検察官雪下陽中作成の各答弁書に記載のとおりであるから、これらを引用する。
一 事実誤認の主張について
1 本件各犯行当時における被告人の責任能力について(弁護人の控訴趣意第一点の一)
論旨は、要するに、被告人は、本件各犯行当時、少なくとも心神耗弱の状態にあったのであるから、被告人に完全な責任能力を認めた原判決には事実の誤認があるというのである。
しかしながら、原判決挙示の関係証拠を総合すると、被告人は、本件各犯行当時、心神喪失は勿論のこと、心神耗弱の状態にもなかったとの原判決の認定を優に肯認でき、当審における事実取調べの結果によっても、この判断は動かし得ない。
所論は、被告人については、(1)被告人は、知能指数が六五ないし六七程度の、軽愚と認められる精神遅滞(精神薄弱)者であること、(2)被告人の性格には、過去の粗暴行為等からも明らかなように、短気で爆発性、攻撃性の傾向があって飲酒するとその傾向が顕著となり、しばしば暴力的行為に及ぶという異常性があるところ、被告人は、本件各犯行当時、飲酒による酩酊状態にあり、これによって右の性格の異常性が一層高揚されていたのであって、右各犯行は、被告人のこのような性格異常と前示の精神遅滞との結合を主な原因とするものであること、(3)被告人は、その所有する自動車の荷台や畑にごみ等を捨てたのは本件被害者のうちの乙山二郎(以下「二郎」という。)及び丙川春子(以下「春子」という。)の両名であると軽信したことから、右両名に対する各犯行に及んだものであるが、一般に、被告人のような精神薄弱者は、その判断機能の低下のため、事実に合致しないことを真実と妄信する傾向、すなわち妄想観念を抱きやすい傾向があるとされており、被告人の右各犯行も、このような精神薄弱性妄想観念を契機とするものと考えられること、(4)被告人は、本件各犯行の状況に関する記憶を全く失っており、このことに照らすと、被告人は、右各犯行当時、一過性の情動性ないし心因性のもうろう状態にあったものと認めるべきであることなど、それ自体で、本件各犯行当時における被告人の責任能力が著しく減弱していたことを認め得るような諸事情があり、仮に右の個々の事情のみでは被告人の責任能力に影響がないとしても、右各犯行は、被告人についてのこれらの事情が複合、累積して出現したことによるものであるから、被告人は、右各犯行当時、少なくとも心神耗弱の状態にあったものである旨主張する。
しかしながら、以下に述べるとおり、所論はいずれも採り得ない。
すなわち、所論指摘の右(1)ないし(4)の各事情についてみるに、(1)については、原審鑑定人徳井達司の鑑定(同人作成の鑑定書及び同人の原審証言をこのように総称し、以下「徳井鑑定」という。)によると、被告人に対する知能検査の結果得られた数値は、所論指摘のとおり六五ないし六七という低値ではあるが、そもそも知能指数は、その検査時における被検者の精神心理状態その他の条件によって変動しうるものであって、検査の結果得られた数値がそのまま被検者の知能水準を示すと判定するのは不適切な場合もあること、現に、被告人の右被検時の心的態度は不熱心であったことが認められるうえ、関係証拠によると、被告人は、長年竹材業に従事し、青のりの採取を副業として収入を得ながら生活してきたものであるが、これまでに竹材等の取引先との間で格別の問題を引き起こしたことはなく、また、その間には自動車の運転免許等を取得し、本件当時の貯蓄も相当額にのぼるなど、その生活態度には、通常人と変わらぬ堅実さが見られこそすれ、特段知能の著しい低格を窺わせる形跡はないことが認められることなどに照らすと、これらの事情を考慮して、被告人の知的水準は、精神遅滞には該当せず、境界域程度に達しているものであって、これが著しく劣悪な水準とはいえないとする徳井鑑定の結論は十分首肯し得るところであるから、この点が被告人の責任能力に影響を及ぼすものとは考えられない。次に、(2)については、徳井鑑定によると、被告人は、未分化で情性の低下、短絡的思考、易怒性、執着性をもち、情動の露呈しやすい人格傾向にあるものの、その程度は著しく劣悪な水準とはいえないことが認められ、これによると、被告人の性格は、その責任能力に著しい影響を及ぼすほど異常であるとはいえず、また、被告人が精神遅滞者に該当しないことは前示のとおりであり、更に、被告人の飲酒が本件各犯行に及ぼした影響についてみても、関係証拠によると、なるほど被告人は、本件当日の昼ころ(昼食時)に約一合の、午後四時半ころから犯行直前までの間に約二合半の日本酒を飲んではいたが、被告人は、元来酒好きで、毎日のように日本酒約二合の晩酌をしており、本件当日の飲酒量が平素のそれと比べて著しく多量であったとはいえないうえ、被告人は、これまでに、適量である二、三合を越えて飲酒しても、そのために他の者に対して粗暴な振舞に及んだことはなかったことが認められるのであって、これらの点に照らすと、被告人が、本件各犯行当時、飲酒により酩酊していたとか、右の飲酒が被告人の性格異常を高揚させて犯行に導いたなどとは認められない。また、(3)については、関係証拠によると、原判決が「被告人及び被害者らの経歴及び犯行に至る経緯」において説示しているとおり、被告人が自己の所有する自動車や畑にごみ等を捨てた張本人が二郎及び春子の両名であると思い込んだことについては、被告人なりの一応の根拠ないし理由があったものと認められるのであって、これが所論のいう「妄信」に当たるとは考えられないうえ、前示のとおりの被告人の知的水準に照らすと、本件各犯行当時における被告人の判断機能は、その責任能力に影響を及ぼすほど低下していたとは認められない。更に、(4)については、関係証拠によると、被告人は、本件各犯行当時、所論指摘のような「もうろう状態」にはなかったことが認められ、この点につき、原判決が「弁護人の主張に対する判断」の一で説示するところは、そのまま当裁判所も是認し得るところである。
以上のとおり、所論指摘の各事情のうち、被告人の知的水準及び性格は、それ自体、本件各犯行当時の被告人の責任能力に影響を及ぼすものとはいえず、その余の事情は、いずれもこれを認めることができない。更に、関係証拠を仔細に検討しても、被告人の本件各犯行の動機や犯行時及びその前後の行動等に格別了解が困難な異常性は認められないことに照らすと、前示の被告人の知的水準及び性格の両要因を合わせ考えてみても、その故に、被告人が、本件各犯行当時、心神耗弱の状態にあったものとは認められない。
その他、所論にかんがみ検討しても、原判決には所論指摘のような事実の誤認はない。論旨は理由がない。
2 T沢夏子に対する殺意の有無について(弁護人の控訴趣意第一点の二)
論旨は、要するに、原判示第二につき、原判決は、被告人が鈴木三郎(以下「鈴木」という。)を殺害しようとした際、同時にその付近の者に対する未必の殺意をも有しながら散弾を発射し、これを現場付近で農作業中のT沢夏子(以下「T沢」という。)に命中させて同女に傷害を負わせたが、同女を殺害するに至らなかった旨認定して被告人をT沢に対する殺人未遂罪に問擬したが、被告人にはT沢に対する殺意はなかったのであるから、原判決には事実の誤認があるというのである。
しかしながら、原判決挙示の関係証拠を総合すると、被告人のT沢に対する未必の殺意を認めた原判決の認定を優に肯認でき、この点に関し、原判決が「弁護人の主張に対する判断」の二で説示するところは、そのまま当裁判所も是認し得るところであって、当審における事実取調べの結果によっても、この判断は動かし得ない。
所論は、被告人は、鈴木に対して原判示の犯行に及んだ当時、現場付近で出会った近隣居住の入江タマコ及び高岸ハルエの両名に対し、それぞれ「おばはん、危ないけんよけとけ。」、「おばさん、子供や撃てへんけん、いんでおれ。」(当時、右高岸は、銃声に驚いて孫を捜していた。)と申し向けており、このことからみて、当時、被告人には、鈴木以外の第三者への被害の発生を阻止しようとする意識が働いていたと考えられるから、被告人が、T沢を含めた第三者に対して未必の殺意を有していたとは認められない旨主張し、関係証拠によると、被告人が、当時、右入江及び高岸の両名に対して所論指摘のとおり申し向けた事実が認められる。
しかしながら、原判決が説示する本件兇器である狩猟用散弾銃の威力、並びに本件犯行時刻及び現場付近の地理的状況等に照らすと、所論指摘の右事実は、被告人が鈴木以外の第三者に対して積極的に危害を加える意思を有してはいなかったことを窺わせるにとどまり、T沢を含めたこれら第三者に対する被告人の未必の殺意までも否定する事情には当たらないから、所論は採り得ない。
その他、所論にかんがみ検討しても、原判決には所論指摘のような事実の誤認はない。論旨は理由がない。
二 量刑不当の主張について(検察官の控訴趣意及び弁護人の控訴趣意第二点)
検察官の論旨は、要するに、本件は、三名に対する殺人及び一名に対する殺人未遂という重大な事犯であって、犯行の動機に酌量の余地はなく、その態様も残忍非道を極め、また犯行の結果も重大であり、このほか、遺族の被害感情が峻烈であること、本件の社会的影響が大きいこと及び被告人の反社会的性格などにかんがみると、被告人に対しては死刑をもって臨むほかはなく、被告人を無期懲役に処した原判決の量刑は軽すぎて不当であるというのであり、弁護人の論旨は、被告人が知能低格のうえ異常性格の持主であり、本件は、被告人のこのような負因の影響によるものであること、その反省の情が顕著であること、被告人の親族が被害者の遺族らに対して慰謝に向けての努力をしていることなどの事情に照らすと、原判決の量刑は重すぎて不当であるというのである。
よって、記録及び当審における事実取調べの結果を総合して検討するに、「本件は、原判決の経緯から、二郎、その内妻の春子及び鈴木の三名の者に対してかねがね強い憤懣の念を抱いていた被告人が、日頃から特に愛着を持って入念に手入れしていた柚畑にごみが捨てられているのを発見し、これが二郎、春子の両名の仕業であると思い込んでいたく立腹し、二郎に対してその旨難詰したところ、却って同人からどなりつけられたため、憤激の余り、同人及び春子に対する殺意をもって、狩猟用散弾銃で右両名に対して散弾を発射、命中させて同人らを殺害した(原判示第一)うえ、右犯行の直後、付近の路上で鈴木を見かけるや、日頃同人から、自己の亡父が生前に米を窃取したことがあるのを揶揄されていたことへの恨みや、既に二郎、春子の両名を殺害していたことから、この際鈴木をも殺害しようと決意するとともに、併せてその付近の者に対しても未必の殺意を有しながら、鈴木に対して右散弾銃で散弾を発射して同人及び付近で農作業中のT沢の両名に命中させたうえ、更に逃げる鈴木を追いかけて同人に対し散弾を発射、命中させ、よって、鈴木を殺害したが、T沢に対しては加療約二週間を要する腹部裂傷の傷害を負わせたにとどまり、これを殺害するに至らなかった(原判示第二)という事案であるところ、殺人というその犯行内容の重大性に照らすと、右のような各犯行の動機、経緯には格別酌量に値するものがあるとはいえない。
次に、各犯行の態様についてみると、被告人は、原判示のとおり病弱あるいは老齢のうえ、当時、いずれも全くの無防備、無抵抗の状態にあった二郎、春子及び鈴木の三名に対し、実験の結果によると、約七〇メートルもの遠距離からの発砲でさえ人を殺害し得るほどの威力をもった本件散弾銃を、何のためらいもなく至近距離から乱射して(もっとも、鈴木に対する当初の銃撃は、同人から約三〇メートル離れた地点からのものである。)右三名をそれぞれ即死させたものであり、ことに二郎及び鈴木の両名に対しては、同人らが、当初の被弾により、あるいはその場に仰向けに倒れたのを認めながら、あるいは負傷して必死に逃げ惑うのに追いすがり、それぞれ止めを刺すべく更に散弾を発射して同人らを死に至らせており、また、これら三名の被害者の遺体にみられる損傷も甚だしく、特に春子のそれは、被弾した顔面が一部を残して砕け飛び、目を覆うばかりの惨状を呈しているのであって、このような点に加え、被告人が、公道上で鈴木を狙って発射した散弾の一部は、全く無関係の第三者であるT沢に命中して同女を負傷させたうえ付近の民家内にも飛散しており、一歩誤れば、より多数の者の生命、身体に危害が及ぶおそれがあったことなどをも合わせ考えると、被告人の本件各犯行は、極めて執拗、残虐かつ危険なものといわなければならない。
また、犯行の結果はあまりにも重大である。すなわち、本件により殺害された者の数は三名にのぼるところ、これらの被害者は、いずれも本件当時平穏に暮らしていたもので、被告人から本件のような仕打ちを受けるような格別のいわれもなく、ことに二郎は、被告人が自己の内妻の春子と一時懇な関係にあった際、その噂を耳にしても被告人を詰ろうとせず、事を穏便に済ませようとさえしていたことが窺われるのに、全く予期し得ない被告人の凶行により、それぞれ瞬時にして無残にも幽明境を異にすることとなったものであって、その無念さは察するに余りあり、被告人の刑責は、この点のみにおいても極めて重いといわなければならず、また、T沢が前記のごとく巻き添えとなって負傷したことも、量刑上軽視することができない。
更に、このような被告人に対する遺族らの被害感情は峻烈であり、ことに、二郎及び鈴木の近親者らは、後記のとおり、被告人の弟らが被害者らの葬儀代の一部にと持参した現金の受領を拒み、当初から被告人に対して極刑を強く求めており、前示の犯行に至る経緯、犯行態様等に照らすと、遺族らの蒙った精神的苦痛の大きさは計り知れず、被告人に対して極刑を臨むその心情は十分に理解し得るところである。
このほか、本件が地域住民らに与えた衝撃、恐怖感は大きく、その社会的影響も軽視し得ないこと、また、二郎の姉の山田冬子が、犯行直後、二郎方においてその惨状を眼のあたりにした結果精神錯乱を来し、遂には自殺するに至ったこと、更に、被告人は、原審公判廷において、当初の罪状認否の段階では公訴事実を全て認める旨の供述をしながら、その後は、各犯行状況等事件の核心部分につき記憶がない旨の供述に終始しており、真摯な反省の情を示しているとまでは認め難いことなどの事情も、量刑上考慮する必要がある。
一方、ここで、いわゆる一般予防及び特別予防の見地から本件についてみるに、まず、本件各犯行が、犯行に至る経緯ないし動機、犯行の態様及び結果など、その犯情が全体として極めて悪質な重大事犯であることに照らすと、被告人に対して極刑を選択する場合も含め、その量刑にあたっては一般予防の見地からの考慮も相当に重要であるといわなければならず、この点につき、原判決が、「量刑の理由」において、本件各犯行が、利欲や情欲の満足を目的としたものではなく、処罰を免れようとする意図もなしに敢行された、いわば破滅型の犯罪であることから、その犯人である被告人に死刑をもって報いることは、一般予防の目的からは特に重要な意義があるとはいえない旨説示するところには、にわかに賛同し得ない。
また、被告人の再犯の危険性及び矯正可能性についてみても、前記一において指摘したとおり、被告人は、未分化で情性の低下、短絡的思考、易怒性、執着性をもち、情動の露呈しやすい人格傾向にあるところ、本件各犯行の動機、経緯や犯行状況等からも窺われるように、右各犯行は、被告人のこのような偏った性格に基因するところが大きいと考えられるうえ、被告人は、これまでにも、二名の者に自宅をのぞき見られたという些細な動機から、同人らを追いかけて自宅まで連れ戻したうえ棒切れで殴打し、傷害を負わせるなどの粗暴な行為に及んだことがあるのであって、このような被告人の性格及び過去の行状などに照らすと、一方で、被告人が、中年の域に達する本件当時まで、交通事犯による罰金刑以外には処せられたことがなく、通常の社会生活を営んできたことなどの事情を考慮しても、被告人が反社会性を有しており、一旦その逆鱗に触れる事態に直面した場合には、激情の赴くままに本件と同様の重大な犯行に至る可能性は十分にあると考えられ、かつ、被告人の現在の年齢やその性格的特徴からすると、今後これを矯正することは著しく困難であるといわざるを得ない。
そして、以上に検討を加えた本件各犯行の動機、経緯、犯行の態様及び結果、遺族らの被害感情、その社会的影響、被告人の反省の態度等の犯行後の状況並びに一般予防及び特別予防の見地からの考慮などの点を総合すると、本件の犯情は極めて悪質であり、被告人の刑責はこの上もなく重大である。
してみると、死刑が人間存在の根元である生命そのものを永遠に奪い去る冷厳な極刑であり、誠にやむをえない場合における窮極の刑罰であって、その適用は慎重に行われなければならないことを考慮し、また、本件各犯行が、通常人と比較してその知的水準が幾分劣る被告人が、飲酒の上、憤激の情を爆発させ、専ら殺害そのものを企図して敢行されたものであって、利欲や情欲の満足あるいは他の犯罪の罪証を隠滅する目的など、それ自体でより悪質と認められる動機の下に行われたものとは、その点で犯情を異にするうえ、いずれも計画性はなく、原判示第二の犯行は、その背後に原判示のようないきさつがあるとはいえ、原判示第一の犯行による興奮の中での犯行とみるべきものであること、被告人は、本件各犯行に及んだのち、その発覚を免れるための何らの手だても講じてはおらず、犯行後逃亡を図ってはいるものの、犯行直後には一旦は自首しようと考え、実母方に立ち寄って同女にその旨を告げたうえ、犯行後自宅から持ち出した蓄えの現金や貯金通帳などを凶器の散弾銃とともに同女に預けるなどしており、その後の逃亡の点にしても、警察署に出頭しようとしたが、現場付近に停車中のパトロールカーや警察官の姿を見て急に恐くなり、とっさに逃亡しようと考えたという被告人の心情は、あながち理解し得ないではないこと、このほか、前示のとおり、被告人の弟らが、被害者の遺族らに対し、葬儀費用の一部として合計三〇万円の現金の提供を申し出ていることなど、本件につき、原判決が「量刑の理由」において説示する事情や弁護人の所論指摘の事情などを含む諸般の情状を最大限に斟酌し、更に、犯行の動機、経緯、犯行の態様、殺害された被害者の数など、その犯情の点で本件と同種の各事犯との比較において慎重に検討してみても、被告人に対してはもはや極刑をもって臨むほかはないものといわなければならないから、検察官の所論のとおり、原判決の量刑は軽すぎて不当であって破棄を免れない。
よって、刑事訴訟法三九七条一項、三八一条により原判決を破棄し、同法四〇〇条但書により当裁判所において更に判決することとする。
原判決認定の事実に原判決挙示の罰条及び科刑上一罪の処理に関する法条を適用し、所定刑中原判示の各罪につきいずれも死刑を選択し、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから同法四六条一項、一〇条により犯情の最も重い原判示第一の乙山二郎に対する殺人の罪の死刑に従って処断することとして他の刑は科さず、被告人を死刑に処し、没収につき同法一九条一項二号、二項本文を、原審における訴訟費用につき刑事訴訟法一八一条一項但書をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 村田 晃 裁判官 松原直幹 裁判官 湯川哲嗣)